2011年3月11日に起こった福島第一原子力発電所事故、東日本大震災及び津波によるの被害を今なお受け続けている子供達の肖像画です。
子供たちの描いた絵、言葉の中にイギリス人画家ジェフ・リードが子供たちの希望に応じて肖像画を描き入れました。

「ストロングチルドレン」について

「ストロングチルドレン」は、イギリス人画家ジェフ・リード氏が継続的に行ってきた共同制作型アートプロジェクトである。子ども達と共同制作することでジェフ・リード氏が目的としているのは、さまざまな困難な状況を経験した子ども達が、絵を描く事によって自分の思いや感情を表現し、それを多くの人々に伝えることにある。
2011年3月11日に多重災害発生時、ジェフ・リード氏は8歳の息子と福島県に住んでいた。その6か月後、大雨による洪水が町を襲い、彼は家族と共にそれまで二年住んでいた町を離れ、京都へ自主避難した。


私はこれまで何年にも渡り、困難な状況を経験しているイギリスの若者や子ども達と共同作業で絵を描いてきました。困難な状況とは、ホームレス状態や、ドラッグやアルコール依存、自傷行為や怒り、或いは家庭内暴力、両親の離婚、親の育児能力欠如、依存症やメンタルヘルスの問題などが含まれます。イギリスの他、メキシコシティのストリートチルドレン達とも制作をしました。その後福島に住むようになり、たくさんの子ども達やその家族達を知った私にとって、福島の子ども達と一緒に絵を描くようになるのはとても自然な流れでした。そして、今後は津波被害を受けた東北の子ども達とも共同制作をしていきたいと思っています。この重要な時代を生きる日本の子ども達と一緒に、力強いメッセージという永遠に残る遺産を創り上げることができたらと願っています。

イギリス人の7歳の女の子と共に描いた作品。空想上のオオカミに対する激しい恐れを取り除こうとしている。  

子ども達と作品を創る際、私はできる限り子ども達に図案を任せ、希望すれば言葉も書き加えてもらっています。まず、最初に子ども達が自分たちのアイデアを基にして下書きをします。そして、下書きを見ながらお互いにアイデアを理解すると、子ども達に実際に絵を描いてもらいます。私は子ども達の指示に従いながら、その中に子ども自身の肖像画を描くのです。時には私が先に肖像画を描いて、その周りを子ども達が絵で埋めることもあります。子ども達はポーズや表情、色や感情などを自分で選びます。共同制作とは言っても、子ども達が私のボスです。私は彼らのアイデアを喚起する手助けをし、あとは彼らの指示に従うだけです。この合作にご両親が参加を希望すれば、それも大歓迎。言葉を書き加えてくれる親御さんもいれば、幼い子どもと一緒に絵を描いてくれる方もいます。

これにはセラピー的な要素も一見ありますが、目的を持った公のプロジェクトであるということが重要なのです。私達は絵を通じて、国内外の大人達や政策立案者、そして他の子ども達と高度な意思疎通を図っているのです。
このプロジェクトの構造が意味するところは、子ども達一人一人の貢献が世の中全体を形作る一部となり、影響していくということです。つまり〝相互に作用するコミュニティ”です。どういうことかと言いますと、例えば子ども達がグループで制作をする時などに時々起ることですが、彼らは以前見たことがある絵を参考に自分のアイデアを広げたり、修正したりしながら、周囲にも影響を与えていくことがあります。まるで絵が言葉を話し、他の絵と一緒に遊んでいるかのように見えます。
単純な絵は、見る者に多様な解釈を持たせるそうです。彼らの絵は、見る側の大人たち自身の子ども時代の記憶を呼び起こすとともに、今、子ども達が経験している現実について大人達が気づいていないことや想像もできないことを教えてくれるのです。

メキシコシティのホームレスの男の子マーティンとの共同作品。彼は学校に戻る決意を固めたいと願っていた。

信条と理念
しっかり話を聞いてもらい、尊重され、クリエイティブな発想を許されれば、子ども達は最強で、そして最も弾性に富む存在であるという信条に基づいて私の作品は創られています。子ども達が自分の置かれた状況に対して考えを発展させ、自分の感情に気付き、それを発信して他者や広い世界とつながることができれば、子ども達は今後の人生も積極的な役割を果たしていくようになるでしょう。

私が見るところ、子ども達は自分が感情や考えをどのように表現しても、どんなことを言っても大丈夫であるというしかるべき安心した環境が与えられる必要があります。一般的に大人が子どもに期待するイメージである喜びや可愛らしさ、楽しそうな様子だけでなく、恐れ、悲しみ、誰かを亡くしたことによる悲嘆、欲求不満や怒りをも含めた全ての感情を表現しても良いという環境です。

家族ホームレス施設にいた9歳男の子と描いた想像の中の理想のベッドルーム。この絵は地方自治体から委託を受けた行政関係者に資料の一つとして提出された。

私はまた、子ども達の発信を世界に届け、その反応を受け取り、そして子ども達の健康や幸福度など生活環境を形成したり制限したりしてしまう政策にも影響を及ぼす道筋を作りたいのです。それは、子ども達が、権限を与えられ、自信を持つという建設的なサイクルを完成させることにつながります。もちろん、子ども達は実際には、ほとんど無力と言っていいでしょう。しかし、情報や指示に従順に従うだけが選択肢ではないと知らせることが重要です。

最後に私が言いたいのは、いかなる歴史的なイベントも政策や倫理観も、子ども達抜きに語られてはならないということです。彼らが書き示したしるしを見るだけでもいいのです。肖像画から見つめる子ども達の目をじっと見て下さるだけでも。

ジェフ・リード

≪翻訳:小林美穂子≫

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